ベトナム・ホーチミン市を旅して(4)サイゴンの残滓

DSC00932.jpg
未開発のサイゴン川対岸

 先日の新聞に、三菱商事と野村不動産がベトナムのコングロマリット、ビングループと組んでホーチミン市の西郊にスマートシティを建設するという記事が載っていた。
 2年後の2022年に1万戸分の高層マンションを供給するという。
 AIや自動運転バスなどで渋滞や大気汚染を解消する計画だそうだが、ホーチミン市の現状を見ていると、その町をホーチミン市から隔離しないかぎり夢物語に思えてしまう。

 そういえば、ホーチミン市の中心街からサイゴン川を隔てた対岸は、東急不動産が開発すると現地の人から聞いた。
 これも日本の協力で市内を貫くように2本の地下鉄が建設中で、2021年の開通を目指していて、急速な近代化が進行している。

建設中の地下鉄1号線ホーチミン市民劇場駅

 メコン川クルーズに行くバスの道すがら、ベトナム人のガイドがいろいろな話をしてくれる。
 個人で見て回るのも楽しいが、現地ツアーに参加するとガイドの話が聞けて面白い。

 ベトナムは社会主義国だ。
 宗教の自由は保障されているが、誰も額面通りには受け取ってなく、就職などで公式に訊かれる際には多くの人が無宗教と申告するらしい。
 しかし、実際には7割の人が仏教を信仰しているとガイドは言っていた。
 
 おそらく、公的には無宗教である方が有利なのだろう。
 同じようなことは欧米でも当てはまる。
 欧米人の多数派はキリスト教徒だが、ほとんど教会にも行かず、無宗教に近い。
 それでもキリスト教徒を名乗るのは、無宗教だというと相手を不安にさせ、社会生活上で差し障りがあるからだと聞いたことがある。
DSC00997.jpg
人民委員会庁舎前のホーチミン像
DSC00898.jpg
サイゴン中央郵便局のホーチミン肖像画
DSC00956.jpg
サイゴン水上バス

 日本も似たようなもので、例えば共産党支持者や創価学会など新興宗教の信者は、職場などであまり公言しない。
 思想の自由、宗教の自由は憲法で保障されているが、無色透明を装った方が社会生活上は無難であることが多い。
 建前と本音を使い分けるのは、何も日本人の専売特許ではない。

 ベトナムの社会主義体制についても、南北では考えの相違があるという。
 詳しくは聞けなかったが、解放した側である北ベトナムと、解放された側である南ベトナムでは、ベトナム戦争とその後の復興を巡る「貧しさを分かち合う社会主義」の評価が違うのかもしれない。

 ホーチミン市は、解放以前はサイゴン市だった。古い世代の人たちは今もサイゴンの名に愛着を持つ。
 街を歩くと公共施設にはホーチミンの名が、民間施設にはサイゴンの名が混在する。
 人民委員会庁舎前の噴水広場には、2015年に新設された大きなホーチミン像が立っている。
 経済発展は、ベトナムを何処に導くのだろう。


ベトナム・ホーチミン市を旅して(3)ベトナムコーヒー

DSC01014.jpg
 ベトナムは総じて物価が安い。
 最近の日本は世界的にも物価の安い国だそうで、海外に出かけると確かにモノが高い。
 デフレとか低賃金とか要因はいくつかあるが、日本円の評価が低いからという見方もあって、外需頼みの日本政府が円安誘導をしているからと、アメリカのトランプさんは文句を言っている。

 1ドル60円台が適正水準だという人もいて、それでは輸出産業が困ると経済界は声をそろえるが、輸入品が安くなるので消費者にとっては有り難い。
 私の朝食は、ドイツから輸入されたシリアルとイギリスから輸入された紅茶で、為替で変動するがそれぞれ600円、800円前後だ。
 1ドル60円台になれば、半値近くになる。
DSC00603.jpg
DSC00606.jpg
IMG_0182-2.jpg

 ベトナムで生産されたものは、その日本から見ても安い。
 ベトナム料理のレストランに入ると、日本なら1人2~3000円程度の食事が1500円もしない。ワンプレートなら飲み物をつけて700円程度で食べられる。
 ところがスタバに入って、サンドイッチとコーヒーを頼んでも700~800円する。

 もちろん、スタバには庶民は来ない。ノートパソコンを抱えたビジネスマン風の人たちで、おそらくは高給取り。
 そう言えば上海でスタバに入った時も日本と同じかやや高めの値段で、店員も客もエリート然としていた。
 中進国ではスタバはステータスシンボルなのだ。

 もっとも土産品や観光客相手のものは、ベトナム産でも高い。
 ベンタイン市場はホーチミン市でも観光名所になっていて、生鮮食料品と並んでアクセサリやコーヒーなど、観光客相手の土産物を売る店が幅を利かしている。
 歩いていても地元の人よりは観光客の方が多いのではないかと思えるほどだ。
 ホーチミン市にはそれほど観光名所がないので、むしろこうしたアジアンな場所に観光客が集まるのかもしれない。

 以前、子供がベトナムに旅行した際にコーヒーを土産に買ってきた。これが殊のほか旨くて、今回の旅行でもコーヒーを買って帰ろうと思っていた。
 コーヒーの原産地といえば日本では南米やハワイ、ジャワなどが知られているが、フランスの植民地だったベトナムでも19世紀から栽培されている。

 ベトナムコーヒーは本来、金属製のフィルターを使って濃い目に淹れるのだが、薄めに入れたブラックが好きな私は通常のペーパーフィルターで淹れる。
 それでもコクがあってとてもおいしい。
DSC00739.jpg
DSC01121.jpg

 ベンタイン市場に行くとコーヒーを売る店がたくさん並んでいる。
 種類もたくさんあって、どれを買ったらいいのかわからなくなったので、日本にいる子供にLINEで土産に買ってきた銘柄を確認すると、ベトナム語だらけのパッケージで商品名がわからないとあって写真が送られてきた。
 市場の店先で確かめると、LIEN SAIGONという銘柄だった。
 多少値引いてはくれたが、日本でコーヒーを買うのと大して変わらない。

 あとでドンコイ通りのスーパーマーケットに行った際に、ジャコウネコのコーヒーも買い足したのだが、普通のコーヒーはそれほど安くはない。
 スーパーも庶民向けではないので、日本でいえばデパ地下や明治屋、紀ノ国屋で買う感じなのかもしれない。
 チョコレートも高い。ベトナムでは、コーヒーやチョコといった嗜好品は高級品なのだろうか。

 ちなみにジャコウネコのコーヒーというのは、ジャコウネコにコーヒーの実を食べさせると果肉だけ消化して種をそのまま排出するんだそうだ。
 この時、ジャコウネコの消化液が種に染み込んで、排出した豆を洗って干す。これが絶妙な味となるそうで、日本で買うと数千円する。
 帰国してから飲んでみると、マイルドな味で何となく猫になった気分がした。


ベトナム・ホーチミン市を旅して(2)貧しさを分かち合う社会主義


 ベトナムのバイクは日本でいえば自転車に相当するようで、日本の自転車運転者が車両としての交通ルールを守らないのと同じ程度に、ベトナムのバイク運転者も交通ルールを守らない。
 信号無視は当たり前で、渋滞していると歩道走行を始める者もいる。歩道を使って右左折するバイクもある。
 バイク運転者の車両としての意識は、日本の自転車運転者にほぼ匹敵し、逆に日本の自転車と同じだと思って歩くと無法なバイクに対処できる。

 そういえば、ホーチミン市ではあまり自転車をみなかった。
 一度自転車を見かけて、ホーチミン市でも自転車が走っているんだと思ったことがあったが、堂々と道路の中央を走っていて、運転者もスピードの遅いバイクに乗っている感覚に見える。

 朝夕の通勤時間帯は道路に尋常ではないほどにバイクが溢れる。郊外から夫婦でやってくるのか、二人乗りは当たり前で、間に子供を挟んだ三人乗り、お父さんの前に小さい子供を抱っこした四人乗り、お父さんとお母さんの間に子供を二人挟んだ五人乗りも見かける。
 これで事故が起きないのが不思議だが、時折救急車のサイレンも聞こえるので、それなりに事故も起きているらしい。
DSC00972.jpg
DSC00857.jpg
DSC00696.jpg

 街を歩いていると、道端に店を広げた物売りを見かける。果物や食べ物・飲み物、雑貨などいろいろなものが並んでいる。
 声をかけられるのも嫌なので素通りするが、ノンラーと呼ばれる円錐形の葉で編んだ笠を被り、天秤棒を担いでやって来る。
 自転車でくる物売りもいるが、高層ビルや高級ブティックの立ち並ぶ街の中に溶け込んでいる物売りを見ると、近代化に取り残されているのか、それとも近代化に抗っているのか、判然としない。

 ただベトナムの市場開放、ドイモイ政策の導入によって、人々の間に経済格差が広がったことは事実のようで、道を歩いていると物乞いをしている人も見かける。
 繁華街ではそれなりにスリやかっぱらいもいるそうで、夕方になるとサッカーのライブビューが行われる人民委員会庁舎前の広場の周りには、交通規制を兼ねてか辻毎に警官が監視している。

 定職に就けない若者もいて、サイゴン川の河岸を散歩していると靴を磨かせろと声をかけてくる。バックスキンの靴を履いているのに声をかけてくる。きっとスニーカーでも声をかけるのだろう。
 おそらく法外な金を要求するのだろうが、パトロールの警備員がやって来るとさっと逃げる。

 メコン川クルーズに行った時のことだ。現地ガイドの人が、降りるときに漕ぎ手からチップを要求されるが払わなくていい、払うとしても1万ドンでいいと言った。
 人のいい連れ合いは漕ぎ手の目の前に座ったこともあって、降りる際にチップを上げた。1万ドンは日本円に換算して50円。
 日本人にとっては大した金額ではないが、ベトナムならコンビニで飲み物が買える。庶民の簡単な食事くらいは出来るのかもしれない。

 優良タクシーに乗った際に、1万ドン未満のお釣りをチップとして渡したら、運転手が破顔して喜んだ。
 カークーラーはなかったが、後部シートの前に小さな扇風機が置いてあって、乗客サービスも満点だった。これがベトナム流おもてなしなのだろう。

 ベトナムは社会主義国だ。アメリカに勝利した「貧しさを分かち合う社会主義」が南北統一後に行き詰まり、ドイモイ政策により確かに経済は豊かにはなった。
 富裕層も誕生した半面、「貧しさを分かち合う社会主義」に取り残された人々がいるというのが、今のベトナムの現実の姿なのだろう。




運営者

七会 静 (ななえ・しずか)

▼著書
ハリー・ポッターの魔法ワールド大図鑑 (廣済堂PB)
「ハリー・ポッター」のホントの魔法事典 (廣済堂PB)
よくわかる「世界の死神」事典 (廣済堂文庫)
ナルニアへの旅―ファンタジー・ツアー・ガイド(主婦と生活社)
幻の錬金術師列伝―賢者の石の探求者たち(主婦と生活社)
ハリー・ポッターの魔法ガイドブック 愛蔵版(主婦と生活社)

(c)NANAE SHIZUKA

リンク
▼運営者の関連サイトです。



▼オンライン辞書
goo辞書  infoseekマルチ辞書
weblio辞書  @nifty辞書  英辞郎on the WEB

▼参加しています。
ブログランキング・にほんブログ村へ

サイト案内
調べたい言葉を、下の窓に入れて検索ボタンを押してみてください。
もしかしたら、その言葉について書かれた記事が見つかるかも…

▼本ブログについての説明・・・
「言葉の重さと、我が存在の軽さについて」  (2007/2/3)
最新記事
最新コメント
カテゴリ
カレンダー
01 | 2020/02 | 03
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
月別アーカイブ
メールフォーム

▼運営者への連絡にお使いください。

お名前:
メールアドレス:
件名:
本文:

RSSリンクの表示
QRコード
QR
お知らせ
▼更新は、現在週1回程度を予定しています。
▼本ブログではFC2アクセス解析を行っています。
▼2006/6/30以前の記事は JUGEM ブログ、2011/9/30以前の記事は忍者ブログに掲載していたものです。2011/9/30以前のコメントには、移転時に一部欠落してしまったものがあります。またコメントに対しての運営者の返事はすべて欠落しています。コメントをいただいた方には、ご了承をお願いします。
▼上記移転時に、一部レイアウトの乱れているページがあります。またリンクが正しくないものがありますが、ご了承ください。
▼不適当と判断されるコメントは、断りなく削除することがあります。
▼トラックバックは受け付けていません。
▼本ブログでは著作権法の権利を保持しています。記事および写真の無断での複製・転載・送信・翻訳等はできません。
▼記事の一部を引用する場合は、本ブログからの引用であることを明記し、上の欄のメールフォームでご連絡ください。
▼リンクはフリーです。