まだ続く・香港的ゆく年くる年

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 前回、香港で意外と英語が通じないことについて書いた。
 しかし英語をろくすっぽ話せない私が、香港人の英語力を云々するのも不遜である。

 香港から日帰りでマカオに行くことになった。
 九龍のチャイナ・フェリー・ターミナルに行き、マカオの外港フェリー・ターミナルに向かう水中翼船の切符を買う。
 香港とマカオは1997年と1999年に中国に返還されたが、どちらも特別行政区として独立していて、通貨も違えば渡航にもパスポートが要る。

 イミグレーションを通り、船客待合室で椅子に腰かけていると、iPadを持った青年が笑顔で近づいてきた。
 前回も書いたように私は黙っていれば香港人に見える。船客待合室の青年も、私が日本人だとは露ほどにも思わなかったらしい。
 中国語で何やら話しかけてくる。中国語がわからない旨を伝えると、今度は英語で何やら聞いてくる。
 どうやら、「サーなんとか」のために2分ほど協力してほしいと言っているらしい。
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ペニンシュラ香港。宿泊はもちろんアフタヌーンティーすら
せず入口を見ていたら、ヘリコプターでやってきた客がいた
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香港島中環・砵典乍街(石板街)
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水中翼船(マカオ外港フェリー・ターミナル)

 サーなんとか、がよくわからなかった。
 サーがつく似たような単語を思い浮かべる。
 ”Subway?”
 “No, Su….”

 そりゃそうだろう。船に乗るのに何で地下鉄のことを聞いてくる?
 それに subway はアメリカでの使い方だ。イギリスで地下鉄は underground か tube。イギリス統治下にあった香港では、subway は使わないはずだ。

 どうやら survey と言っているらしかった。この単語を目にした記憶はあったが、どうにも意味が思い出せない。
 ”Survey?” “Yes, Survey” を2,3回繰り返すと、横で聞いていた連れ合いが “What's Survey?” と聞いた。
 これが決定打だった。
 ついに青年は諦めて去って行った。

 2週間前、ニューヨークに住んでいた友人とこんな会話をしたばかりだった。
 ──おまえは英語が堪能だから外国に行っても困らないだろうけど、英語を知らなくてかえって便利な時もある。
 ──そうなの?
 ──トラブルになった時に、俺が意味が分からないという顔をして肩をすくめると、たいてい相手が諦めてくれるんだよ。
 そういえば新宿御苑で、言葉が通じなくて困った係員が入場料を徴収しなかったという事件があった。言葉が通じなくて得することもある。

 船に乗ってからネット辞書で調べると、survey が世論調査という意味であることが分かった。青年はマカオ観光局の人で、観光客のアンケート調査をしていたようだった。
 きっと、どこから来たのかとか、マカオに何をしに行くのかとか、年齢だとか、そんな調査だったのだろう。

 帰国してから子供にこの話をすると、survey が通じないと思ったら他の単語に置き換えて聞くことも出来たはずで、マカオ観光局の人も英語力が足りなかったんじゃないかと言った。
 自分のことは棚に上げて、そういうことにしておこう。

続々・香港的ゆく年くる年

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 誤解のないように書いておけば、香港に行ったのは去年の12月上旬で、香港で買った吉祥如意と年年有餘の飾りを玄関に飾ったから、香港的ゆく年くる年だったわけだ。
 ゆく年くる年は日本で過ごしたので、NHKの除夜の鐘が興福寺だったことも知っている。本当は渋谷交差点のカウントダウンを期待したのだけれども。

 さて、香港・マカオでは中華料理好きの連れ合いに従って3食ほほ中華だった。
 慎ましく吉祥如意と年年有餘を願うような庶民なので、夜景を見ながら食事をする高級料理店には一度も行かず、路面か地下にある庶民的な店で、身振り手振りで料理を注文した。

 香港が初めてなのは1回目に書いたが、香港に行くまで香港人はみんな英語が話せるものだと思っていた。
 ジャッキー・チェンやブルース・リーが映画の中で英語を話したかどうかは覚えていないが、ファーストネームがジャッキーやブルースなんだから、英語は話せるものと思っていた。

 香港は長いことイギリス統治下だったし、香港人の子供たちは学校では英語名を名乗ると半世紀前に新聞で読んだ記憶がある。
 車だっていまだに左側通行だ。

 しかし香港に行くと、飲食店や商店の店員に英語が通じない。正確には店長やマネージャークラスの人には通じるが、接客係には通じない。
 帰国してから調べて見ると事情はいささか複雑だった。
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旺角(モンコック)西洋菜南街
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尖沙咀(チムサーチョイ)加連威老道
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佐敦(ジョーダン)新填地街

 イギリス統治下では公用語は英語だったが、香港人の日常会話は広東語。当初、英語はエリート層が話すものだったが、経済発展と共に必要性から一般大衆にも広がっていったらしい。
 香港政庁の教育は民間任せだったため広東語が中心。義務教育が実施されるのは1970年代に入ってからというから、1966年生まれ以降がこれに相当する。
 1997年の返還前には全教科を英語で教える中学校が9割近かったというから、得手不得手は別にしても、今の30~40代の香港人の多くは曲がりなりにも英語を話せるということになる。

 ところが香港返還により、英語は公用語として残されるものの中国語が公用語に加わり、母国語中心政策が推し進められた。
 この結果、若い世代を中心に香港人の英語力が低下したという。
 63ヵ国、18歳以上の成人75万人を対象にしたある調査によれば、香港の英語力世界ランキングは31位。37位の中国と大差ない。
 ちなみに日本は26位で香港より上なので、日本での英語の通じ方を見れば推して知るべしだろう。
 まあ私自身の英語力も低いので、片言の英語と身振り手振りでちょうどいいということになる。

 ところで、以前、仕事で台湾に行ったことがあり、その時、取引先の台湾人に「七会さんは黙っていれば香港人に見える」と言われたことがあった。
 実際、香港を歩いていると誰も日本人だとは思わないようで、中国語で話しかけてくる。私が中国語を話せないのを知ると一様に怪訝な顔をするのには正直困った。

 今の香港は経済でも観光客や人の交流でも大きく中国に依存するようになっている。
 これからは英語よりも中国公用語の重要度の方が高まるのだろう。香港が中国に飲み込まれるのもそう遠くはないのかもしれない。

続・香港的ゆく年くる年

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 正月飾りの文字は、吉祥如意と年年有餘だ。
 「佳いことが思いのままに」「毎年ゆとりのある生活」といった意味なのだろう。

 店に下がっているのを見てどちらにしようか迷っていた連れ合いは、吉祥如意を選んでレジに持って行った。
 すると女主人が、これは玄関の両側に飾るものだから対で買わないといけないと言う。それで、年年有余と併せて買うことになった。
 「オバサン、商売上手いな」と脇で私が日本語で独りごちたが、実際対で飾るようにできているのだろう。

 吉祥如意と年年有餘。
 日本語で意味を書くとそうでもないが、漢字の字面を眺めるとやけに即物的だ。
 紙銭を煙にして冥界に届けるといった習俗に見られるように、中国の民衆宗教には即物的なところがある。
 以前、中国女性と結婚した上海に住んでいるイギリス人と話したことがあるが、彼が知っている日本語のフレーズは唯一、「中国人、金だけね」だった。

 中国人の名誉のために言っておけば、もちろんそうでない人もいる。また、レバノン生まれのゴーンさんを見れば「レバノン人、金だけね」だし、東京人から見れば「大阪人、金だけね」に見えるかもしれない。多くのアメリカ人は「ウォール街の人たち、金だけね」と思っているだろう。

 しかし、日々の生活に苦闘する多くの庶民からすれば、吉祥如意と年年有餘は切なる願い。いじましいくらいにささやかな願いかもしれない。
 連れ合いも、おそらくはそんな気持ちからこの正月飾りを玄関に掛けたくなったのだろう。
 そう思うと、吉祥如意と年年有餘の文字が涙に霞む。
          
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油麻地天后廟
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マカオ媽閣廟
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媽閣廟に吊るされた渦巻き線香

 民衆宗教といえば、今回の旅行で香港で2か所、マカオで1か所、民衆宗教の寺院に行った。
 中国の宗教は儒教や道教、インド伝来の仏教が代表的だが、少数民族を含めて民衆宗教がかなりあって民衆の信仰を集めている。

 彌敦道(ネイザンロード)に近い、九龍・油麻地(ヤウマテイ)天后廟は、正面中央に媽祖、両側にも中国の神々が祀られている。
 媽祖は海神で、中国沿海部、台湾などで信仰を集めている。横浜中華街にも媽祖を祀る廟がある。 

 文武廟は香港島のビクトリア・ピーク(大平山)の裾、細い道の入り組んだ繁華街にあって、ちょっと場所がわかりにくい。文昌帝君と関聖帝君という文学と武道の神が祀られている。
 マカオの媽閣廟(マーコミュウ)は世界遺産にもなっていて、阿媽と呼ぶ媽祖を祀っている。

 いずれも観光地になっているが、地元の人たちの信仰も篤く、常に熱心に拝む人たちがいる。
 寺院では金鳥蚊取り線香を10倍くらいに巨大化した渦巻き線香が置いてあって、お金を収めるとこれに火を点けて天井から吊るして供えてくれる。
 渦巻き線香は吊るされると円錐状に垂れ下がるが、次々と供えられるので天井からいくつも下がっている。
 灰が下にいる人に落ちないように受け皿もいっしょに下げられるので、ちょっと面白い景色だ。

 私も神前に手を合わせ、香港・マカオの人たちと共に慎ましやかに吉祥如意と年年有餘を祈願した。



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