廃棄された東大食堂の絵画と実利主義

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 ゴールデンウィークが終わった。
 私にはほとんど関係がないが、街に出かければ旅行用バッグを引き摺っている人を多く見かけた。
 東京ドームでは引退する安室奈美恵さんのコンサートも開かれていて、水道橋界隈で久し振りにアムラーの姿を見た。

 ゴールデンウィークが終われば7月の海の日までは祝日がない。
 サラリーマンなら溜め息の出るところで、取り敢えずはリセットしてお仕事スタートということになる。
 4月までに続いた不祥事も一緒にリセットされてしまい、忘れそうになる。

 森友、加計、相撲協会、財務事務次官のセクハラ、TOKIO・・・東大生協の食堂改装で現代画家の絵を処分してしまったという事件まであった。

 ゴールデンウィーク明けの昨日、友人に誘われて東大総合研究博物館に出掛けた。
 総合博物館というわりには展示は分散していて、小石川植物園に建築関係の分館、丸の内のKITTE内にも2フロアの展示スペースがあって、本館は考古学が中心となっている。

 昼食は折角来たのだからと、話題になっている東大生協の中央食堂でとることにした。
 処分した絵がどこに飾ってあったのかは知らなかったが、改装後の食堂はきれいでメニューも豊富。タニタ食堂メニューや、日本橋・泰明軒のハンバーグまであったが、これまた折角だからとカフェテリア方式の学食らしいメニューにした。

 処分した絵画については、残念ながら現存していないという調査結果が今日、ホームページに掲載された。
 処分したのが半年以上も前ということもわかって、おそらくは粉砕されたか焼却されてしまったのだろう。

 3年ほど前、文科省が文系不要ともとれる通達をしたのを思い出す。 
 「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」という平成27年6月8日の文部科学大臣決定で、問題となったのは「第3 国立大学法人の組織及び業務全般の見直し 1組織の見直し(1)「ミッションの再定義」を踏まえた組織の見直し」に書かれた、次の文言だ。

 ──特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする。

 この時の文科大臣は第3次安倍内閣の下村博文さんで、セクハラ財務事務次官を擁護して「ハメられた」と発言した東京11区(板橋区)選出の衆院議員。加計学園文書にも名前が登場している。

 世の中は実利主義に陥っている。

じつりしゅぎ【実利主義】
現実の利益ないし実際の効用を考え方の基礎におく立場。功利主義。(大辞林)

 文科省通達における「社会的要請」とは、企業なり産業界が求めている人材で、要は実利に結びつかない教員養成や人文社会科学はお呼びではないということ。
 東大博物館で見た考古学などはその最たるもので、わかりやすくいえばネアンデルタール人を研究して企業が儲かるか? 税収が増えるか? ということだ。

 東大すらもこの実利主義に蝕まれていて、その結果が東大生協の絵画廃棄処分に結びついていると言ったら、飛躍しすぎだろうか?
 東大生協の報告書にはこう書かれている。

 ──1976年に東大生協創立30周年記念事業の一環として、元同生協役職員らで構成した記念事業委員会が、元生協従業員等に募った募金の使途として、高階秀爾先生(東京大学名誉教授・当時文学部教授)のご推薦によって宇佐美氏に制作を依頼し、記念事業委員会から東大生協に寄贈された作品で、以来40年以上にわたって中央食堂の壁面に展示しておりました。

 この時の生協職員らの功利ではなく文化に寄せた思いは、絵とともに消え去ってしまったわけだ。
 そういえば、東大生協の売店は、東大チョコや東大ゴーフルといった、お土産用の「東大グッズ」に溢れていた。

レッドライン─テロ、北朝鮮、並びに今井絵理子議員の場合

Plaça_de_Catalunya
カタルーニャ広場。ビル群の右奥にランブラス通りがある
Les Champs-Élysées
シャンゼリゼ通り。正面が付近でテロのあった凱旋門


 先週、8月17日の木曜日、現地時間では夕方の17時頃、スペインのバルセロナ、ランブラス通りでテロ事件が起きた。
 4月20日にもパリのシャンゼリゼ通りでテロ事件があったが、実は昨年11月、旅行でこの2つの通りを訪れている。
 自分が訪れた場所で立て続けにテロが起きると、日本にいるとはいえ、さすがにテロの恐怖が身近に感じられる。

 もっとも、事件が起きた後の18日朝、民放のワイドショーはスキャンダルネタ、NHKはいつも通りの高校野球中継で、詳報はBBCの国際放送で見るしかなかったのだが・・・

 最近のイスラム国のテロ攻撃は、とにかく目立つところで事件を起こそうとしているように見える。
 ランブラス通りもシャンゼリゼ通りも、日本でいえば銀座通りのようなところで、繁華で外国人旅行者も多い。
 次はどこかと考えると、旅行中もテロに用心せざるを得ない。
 2020年にオリンピックを控えている日本だって、いつまで対岸の火事と思っていられるか。

 先日、ビデオでアメリカ映画『シン・レッド・ライン』(テレンス・マリック監督、1998)を見た。
 ガダルカナル島の激戦をアメリカ側から描いたもので、最前線で戦った兵士の勝利の喜びなどない悲惨な戦争を描いている。
 原題は"The Thin Red Line"で、Red Lineは「越えてはならない一線」という意味。

 ワイドショーでは元SPEEDの今井絵理子さんが、恋人つなぎの神戸市議とホテルに同衾して一線を越えたかどうかが問題となっているが、これもレッドラインになるのかもしれない。

 もっとシリアスな問題でいえば北朝鮮とアメリカの間にあるレッドラインで、一般にはこうした場合に使われる。
 つまり、平和的解決を捨てて軍事的解決に向かう、越えてはならない一線のことをいい、米朝間のレッドラインでいえば、北朝鮮がグァムの領海外、あるいは領海内にICBMを発射することがそれだと言われている。

 映画のタイトルに戻れば、Thinは「細い」という意味で、「越えてはならないかすかな一線」ということになる。

 テロリズムの定義は難しい。
 大辞林には「一定の政治目的を実現するために暗殺・暴行などの手段を行使することを認める主義。また、それに基づく暴力の行使」と書かれているが、伊藤博文を暗殺した安重根は日本ではテロリストだが、韓国では英雄ということになっている。

 イスラム過激主義については、それを義とするか悪とするかは、安重根同様、立場によって異なる。
 ウサマ・ビン・ラディン殺害についても、イスラム過激派にとってはアメリカ政府によるテロということになる。

 ただ、政治とは無関係な市民をターゲットにしたテロは、イスラムの大義とは無縁で、プロパガンダを目的としたテロのためのテロでしかない。
 IS、イスラム国もまた、越えてはならない一線、レッドラインを越えてしまったということになる。


忖度について忖度する(下)

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 日本での忖度の初めては、平安時代、菅原道真の漢詩「敍意一百韻」だった。
 しかし、道真は学問の神様だ。一般の人間が神様の言葉を使うようになるのは、970年後の明治時代になってからになる。
 少なくとも日本国語大辞典(小学館)の用例ではそうなっている。
 一般の人間には神様の言葉は理解できなかったのか、あるいは畏れ多くて使えなかったのか。

 明治7年(1874)出版の『新東京繁盛記』は明治初期の東京の風俗を書いたもので、初編・人力車の項に忖度が登場する。
 人力車夫が言葉巧みに客を引く様子について、「人の行く所を忖度して、而(しか)して何れの帰りと唱ふものは、人をしてその廉価を思はしめて、而してこれを釣らんと欲するなり」と書いている。
 客がどこに行こうとしているのか忖度、客の考えを推し量り、「どこどこへ帰る途中だ」と言って安く乗れると思わせて人力車に乗せようとする。

 明治8年(1875)の福沢諭吉の『文明論之概略』にも忖度が登場する。
 「一国人民の智徳を論ず」で、人の心は複雑で変わりやすく推量できないと述べた後で、「他人の心を忖度す可(べか)らざるは固(もと)より論を俟(ま)たず、夫婦親子の間と雖(いえ)ども互に其心機の変を測る可らず」としている。
 忖度は天に委ねるとする学問の神様・菅原道真と同じく、慶應義塾創立の福沢先生は、人の心は忖度できないと言っている。

 これまでの例からもわかるように、忖度はインテリ用語で、出自は漢語。中国の最古の詩集『詩経』の「小雅・巧言」に忖度が出てくる。
 ちなみに朝日新聞の知恵蔵miniに「『忖度』という言葉は、中国で西暦210年に書かれた『述志令』に見られるのが初とされ・・・」と書かれているのは誤り。
 『詩経』は周代、紀元前9~7世紀に詠まれている。

 少し長いが、該当の一節を引用する。

 奕奕寢廟 君子作之
 秩秩大猷 聖人莫之 
 他人有心 予忖度之 
 躍躍毚兔 遇犬獲之 
 奕奕(えきえき)たる寢廟(しんびょう) 君子之(これ)を作る
 秩秩(ちつちつ)たる大猷(たいゆう) 聖人之を莫(はか)る
 他人心有り 予(われ)之を忖度す
 躍躍(やくやく)たる毚兔(ざんと) 犬に遇(あ)いて獲(え)らる

 これを現代文にすると、次のようになる。

 大いなる御霊屋(みたまや)は君子が作り給ひ、秩序正しい大道は聖人が定め給うた
 他人に悪い心があれば、これを推し量るは易いこと 跳ね回る狡い兎は、犬に捕まってしまうものだ

 君子・聖人の教えに従えば、他人に悪心あればこれを忖度するのは易いこと。 
 日本の君子たる首相とファーストレディは、残念ながら「他人心有り 予之を忖度す」とはいかず、狡い兎に見事騙されてしまったということか。

 『詩経』によれば、忖度すべきは官僚ではなく、安倍夫妻であったというお粗末。



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