レッドライン─テロ、北朝鮮、並びに今井絵理子議員の場合

Plaça_de_Catalunya
カタルーニャ広場。ビル群の右奥にランブラス通りがある
Les Champs-Élysées
シャンゼリゼ通り。正面が付近でテロのあった凱旋門


 先週、8月17日の木曜日、現地時間では夕方の17時頃、スペインのバルセロナ、ランブラス通りでテロ事件が起きた。
 4月20日にもパリのシャンゼリゼ通りでテロ事件があったが、実は昨年11月、旅行でこの2つの通りを訪れている。
 自分が訪れた場所で立て続けにテロが起きると、日本にいるとはいえ、さすがにテロの恐怖が身近に感じられる。

 もっとも、事件が起きた後の18日朝、民放のワイドショーはスキャンダルネタ、NHKはいつも通りの高校野球中継で、詳報はBBCの国際放送で見るしかなかったのだが・・・

 最近のイスラム国のテロ攻撃は、とにかく目立つところで事件を起こそうとしているように見える。
 ランブラス通りもシャンゼリゼ通りも、日本でいえば銀座通りのようなところで、繁華で外国人旅行者も多い。
 次はどこかと考えると、旅行中もテロに用心せざるを得ない。
 2020年にオリンピックを控えている日本だって、いつまで対岸の火事と思っていられるか。

 先日、ビデオでアメリカ映画『シン・レッド・ライン』(テレンス・マリック監督、1998)を見た。
 ガダルカナル島の激戦をアメリカ側から描いたもので、最前線で戦った兵士の勝利の喜びなどない悲惨な戦争を描いている。
 原題は"The Thin Red Line"で、Red Lineは「越えてはならない一線」という意味。

 ワイドショーでは元SPEEDの今井絵理子さんが、恋人つなぎの神戸市議とホテルに同衾して一線を越えたかどうかが問題となっているが、これもレッドラインになるのかもしれない。

 もっとシリアスな問題でいえば北朝鮮とアメリカの間にあるレッドラインで、一般にはこうした場合に使われる。
 つまり、平和的解決を捨てて軍事的解決に向かう、越えてはならない一線のことをいい、米朝間のレッドラインでいえば、北朝鮮がグァムの領海外、あるいは領海内にICBMを発射することがそれだと言われている。

 映画のタイトルに戻れば、Thinは「細い」という意味で、「越えてはならないかすかな一線」ということになる。

 テロリズムの定義は難しい。
 大辞林には「一定の政治目的を実現するために暗殺・暴行などの手段を行使することを認める主義。また、それに基づく暴力の行使」と書かれているが、伊藤博文を暗殺した安重根は日本ではテロリストだが、韓国では英雄ということになっている。

 イスラム過激主義については、それを義とするか悪とするかは、安重根同様、立場によって異なる。
 ウサマ・ビン・ラディン殺害についても、イスラム過激派にとってはアメリカ政府によるテロということになる。

 ただ、政治とは無関係な市民をターゲットにしたテロは、イスラムの大義とは無縁で、プロパガンダを目的としたテロのためのテロでしかない。
 IS、イスラム国もまた、越えてはならない一線、レッドラインを越えてしまったということになる。


忖度について忖度する(下)

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 日本での忖度の初めては、平安時代、菅原道真の漢詩「敍意一百韻」だった。
 しかし、道真は学問の神様だ。一般の人間が神様の言葉を使うようになるのは、970年後の明治時代になってからになる。
 少なくとも日本国語大辞典(小学館)の用例ではそうなっている。
 一般の人間には神様の言葉は理解できなかったのか、あるいは畏れ多くて使えなかったのか。

 明治7年(1874)出版の『新東京繁盛記』は明治初期の東京の風俗を書いたもので、初編・人力車の項に忖度が登場する。
 人力車夫が言葉巧みに客を引く様子について、「人の行く所を忖度して、而(しか)して何れの帰りと唱ふものは、人をしてその廉価を思はしめて、而してこれを釣らんと欲するなり」と書いている。
 客がどこに行こうとしているのか忖度、客の考えを推し量り、「どこどこへ帰る途中だ」と言って安く乗れると思わせて人力車に乗せようとする。

 明治8年(1875)の福沢諭吉の『文明論之概略』にも忖度が登場する。
 「一国人民の智徳を論ず」で、人の心は複雑で変わりやすく推量できないと述べた後で、「他人の心を忖度す可(べか)らざるは固(もと)より論を俟(ま)たず、夫婦親子の間と雖(いえ)ども互に其心機の変を測る可らず」としている。
 忖度は天に委ねるとする学問の神様・菅原道真と同じく、慶應義塾創立の福沢先生は、人の心は忖度できないと言っている。

 これまでの例からもわかるように、忖度はインテリ用語で、出自は漢語。中国の最古の詩集『詩経』の「小雅・巧言」に忖度が出てくる。
 ちなみに朝日新聞の知恵蔵miniに「『忖度』という言葉は、中国で西暦210年に書かれた『述志令』に見られるのが初とされ・・・」と書かれているのは誤り。
 『詩経』は周代、紀元前9~7世紀に詠まれている。

 少し長いが、該当の一節を引用する。

 奕奕寢廟 君子作之
 秩秩大猷 聖人莫之 
 他人有心 予忖度之 
 躍躍毚兔 遇犬獲之 
 奕奕(えきえき)たる寢廟(しんびょう) 君子之(これ)を作る
 秩秩(ちつちつ)たる大猷(たいゆう) 聖人之を莫(はか)る
 他人心有り 予(われ)之を忖度す
 躍躍(やくやく)たる毚兔(ざんと) 犬に遇(あ)いて獲(え)らる

 これを現代文にすると、次のようになる。

 大いなる御霊屋(みたまや)は君子が作り給ひ、秩序正しい大道は聖人が定め給うた
 他人に悪い心があれば、これを推し量るは易いこと 跳ね回る狡い兎は、犬に捕まってしまうものだ

 君子・聖人の教えに従えば、他人に悪心あればこれを忖度するのは易いこと。 
 日本の君子たる首相とファーストレディは、残念ながら「他人心有り 予之を忖度す」とはいかず、狡い兎に見事騙されてしまったということか。

 『詩経』によれば、忖度すべきは官僚ではなく、安倍夫妻であったというお粗末。

忖度について忖度する(中)

IMG_8253 (367x275)
 美しい国ニッポンの美風である忖度は、いつからあったのか? 
 日本国語大辞典(小学館)によれば、何と平安時代にまで遡ることができる。
 忖度についても、教育勅語が唱える通り、「我カ皇祖皇宗國ヲ肇󠄁(はじ)ムルコト宏遠󠄁ニ德ヲ樹(た)ツルコト深厚ナリ」で、「以テ爾(なんじ)祖先ノ遺󠄁風ヲ顯彰スルニ足ラン」というわけだ。

 忖度を平安時代に用いたのは、学問の神様として今も人気がある菅原道真で、延喜3年(903)成立の漢詩集『菅家後集』の「敍意一百韻」に出てくる。

 「敍意一百韻」は右大臣の道真が政略によって左遷、大宰府に流刑されてから詠まれた漢詩で、人々の仕打ちや薄情、道真の運命と落胆、太宰府でのうらぶれた生活などの恨みつらみを語った、告白の詩となっている。
 同志と思っていた安倍夫妻に裏切られたと感じている、今の籠池さんの心境かもしれない。

 生涯無定地 
 生涯定(やす)き地(ところ)なし、で始まる詩の中の一句に次のように出てくる。

 舂韲由造化 忖度委陶甄
 舂韲(しょうせい)は造化(ぞうか)に由(よ)る 忖度は陶甄(とうけん)に委(ゆだ)ぬ

 舂は「うすづく」で穀物を臼で搗くこと、韲は「あえもの、なます」のことで、舂韲は食事を意味する。
 造化は「天地とその間に存在する万物をつくり出し、育てること。また、その道理・それを行う神」(大辞林)。
 陶は「すえ」、甄は「陶器をつくる」ことで、陶甄は陶器をつくること、転じて聖王(徳の高い君主)が天下を治めること、造物主が万物を造り上げることを意味する。

 舂韲は造化に由る 忖度は陶甄に委ぬ
 毎日の食事は天の心のままであるように、忖度、他人の心を推し量ることは天に委ねる

 虚偽の告訴により流刑となった道真の諦観の境地が表されてしみじみとするが、「森友学園」問題では、忖度は天ではなく官僚に委ねられたということか。




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