明治の死語・新語 二六時中と四六時中

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 しばらく前のことになるが、大正時代に書かれた『江戸から東京へ』という本を読んでいた時に、二六時中という表現に出合った。
 自分の無知を晒すようだが、一瞬、どういう意味なんだろうと思った。

 四六時中という言葉なら知っている。
 一日中、いつも、という意味で、例えば、四六時中寝てばかりいる、とか、四六時中食ってばかりいる、というように使われる。

 これまた浅薄を晒すようだが、二六時中は四六時中の半分だから、半日のことだろうかとも思ったりしたが、文意からは四六時中と同じ意味で使われていた。

 ──二六時中機械の音がしている。

 四六時中がなぜ一日中、いつも、という意味かというと、四×六=二十四、つまり二十四時間、一日中ということになる。

 一日が二十四時間になったのは明治以降のことで、江戸時代は、子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の十二刻だった。
 つまり、二×六=十二、十二刻、一日中というわけだ。
 ちなみに丑の刻は、現在の1時から3時の2時間で、これを4つに分けた3つ目、2時から2時半が丑三つ時になる。

 四六時中は、もとは二六時中で、1日が24時間となって、新しい時間に言い換えられたというわけだ。
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 二六時中はしゃれである。
 似たものに二八蕎麦があって、江戸時代、二×八=十六、十六文で売る蕎麦を二八蕎麦といったという説がある。
 江戸時代に書かれた浮世絵などには、「二八そば」の看板を下げた蕎麦売りの姿が描かれている。
 もっとも二×八=十六文は俗説で、そば粉8、小麦粉2の割合で打った蕎麦をいうのだともいう。

 二八蕎麦の語源については定説がないというのが定説になっているが、少なくとも江戸期以降の言葉で、二×八=十六文にしても江戸っ子らしいしゃれで、二六時中も同じように江戸っ子のしゃれかと思っていたら、そうではないらしい。

 日本国語大辞典(小学館)を見ると、鎌倉時代に元から渡来した僧、明極楚俊(みんきそしゅん)の遺稿の中に二六時中が使われていて、その外にも室町時代に用例がある。
 しゃれ気は、江戸っ子の専売特許ではなかったらしい。

 明治になって、一日が24時間になってからも二六時中はしばらく生き残っていて、夏目漱石『吾輩は猫である』にも登場するそうだが、四六時中が使われるのは意外と早く、日本国語大辞典の用例では、明治9年、萩原乙彦『音訓新聞字引』に登場している。

四六時中 シロクジチュウ 一昼一夜 廿四時ナリ

 『吾輩は猫である』は明治38~39年に『ホトトギス』に連載されたが、国木田独歩はそれよりも2年早い明治36年に『悪魔』で四六時中を使用している。
 四六時中は明治時代の新語である。独歩の方が漱石よりも、新しく登場した言葉に柔軟だったということか?

※写真は、二六時中寝ている、吾輩は猫である。

風呂をうめる、ってどういう意味?(下)

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 お風呂をうめるについて、大辞林には次のように書かれている。

うめる【埋める】
⑦水を加えてぬるくする。また、薄める。 「お風呂を-・める」 「酒ニ水ヲ-・ムル/日葡」
 
 例文の日葡は日葡辞書のことで、1603~4年に刊行された日本語からポルトガル語への辞書。薄めるの意味で「うむる」が使われている。

 語釈⑦は、お風呂・酒を「うす(薄)める」が「うめる」に訛ったのではないか?
 ふと、そんな考えが頭をよぎる。
 で、結論から言えば、そうではなかった。

 日本国語大辞典(小学館)を調べると、「薄める」という言葉が使われるようになったのは近年のことだ。
 初出は1909年の森鷗外『金貨』で、「小男は薄めて酒を飲みながら」。1910~11年の夏目漱石『思い出す事など』にも使われていることから、明治後期には「薄める」という言い方が一般化していたと考えられる。

 もとは「うす(薄)し」の形容詞で、『源氏物語』などに用例がある。物の密度や濃度などが少ないこと、淡いことで、形容動詞の「うす(薄)め」の用例が登場するのは、1722年の『浄瑠璃・浦島年代記』で、「薄し」の動詞化は近代に入ってからという推測ができる。

 これに対し、「うめる」の用例は1010年頃の『紫式部日記』、同じころの『栄花物語』にすでにある。

 面白いのは日本国語大辞典の説明で、「温かさや濃さを適度にするために、他の物を混ぜ入れる」に付け加えて、「温くするために湯に水を入れる。また、温かくするために湯を加える」と書いていることだ。
 つまり、大辞林の「⑦水を加えてぬるくする。また、薄める」だけでなく、ぬるい水に熱い湯を加えることもまた「うめる」ということだ。

 1809~13年の『滑稽本・浮世風呂』には次のように書かれているそうだ。
「あついといへば水をうめ、ぬるいといへば湯をうめる」

 家庭風呂ではウメルことがなくなった。
 せめて銭湯や温泉に行った時くらいは、ウメルを使わないと本当に死語になっちまうな。

 あつくても がまんした
 うめなかった。


風呂をうめる、ってどういう意味?(上)

              
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4-22蕎麦細工の角兵衛獅子 (275x367)

 先般、豊島区に住んでいる矢島勝昭さんにお会いする機会があった。
 矢島さんは昭和4年生まれの今年88歳になられた方で、かつて日本電電公社にお勤めの傍ら、雑誌にイラストを描いていらっしゃった。
 退職後は郷土史の研究を始められ、平成7年、江戸時代に雑司ヶ谷鬼子母神の郷土玩具として名物だった、風車と麦藁で作られた角兵衛獅子を復元された。
 これまでにテレビでも紹介され、ご自宅の一部を展示室にされている。

 2月初旬にお訪ねしたので、お土産にバレンタイン・チョコレートに持参し、「男からもらっても嬉しくないかもしれませんが」と申し上げたところ、「甘党です」と喜んでいただけた。
 そのお返しだったのか、帰りに『画集・二十世紀の情景』というご著書をいただいた。

 矢島さんが生まれ育った池袋・雑司ヶ谷界隈の昔を描いたもので、今からは想像もつかないような情景ばかりだ。
 いただいた本を読み終わってテーブルに置いていたら、子供が目ざとくそれを見つけてぱらぱらめくり始めた。

「うめる、ってどういう意味?」
 子供が顔を上げて言った。
「うめるって、お風呂の?」
「そうみたいだけど・・・」

「雑司ヶ谷わんぱく時代」と題された一連の絵に、銭湯の男湯の脱衣場を描いたものがあった。二人の男の子が引き戸を開けて、脱衣場をおそるおそる覗いている。
 絵には次のような文が付されている。

 おとこゆに はじめて はいった
 ちょっと こわかった
 あつくても がまんした
 うめなかった。

 文から推察するに、それまで男の子は母親に連れられて女湯に入っていたのだろうか。
「もう大きくなったんだから、男湯に入りなさい」 
 母親に言われて、友達と一緒に男湯の扉を開ける。そこには大人の男ばかりで、母親の保護を離れた子供には不安が広がる・・・
 
 さて、ここからは、矢島さんの情感あふれる世界を離れて、「うめる」という言葉についての現実的な話だ。(続く)


(写真・絵)
矢島さんが復元した蕎麦細工の角兵衛獅子(上)と、風車(中)。
下は『江戸名所図会』に描かれた、雑司ヶ谷鬼子母神参道の「御休ところ」で売られている角兵衛獅子と風車。




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