安倍首相のデンデンについての云々

 

1月24日の参議院本会議での安倍首相の誤読が話題になっている。
 民進党の蓮舫代表の代表質問に対する答弁でのことだ。

(蓮舫代表)
 まるで我々がずっと批判に明け暮れているとの言い方は訂正してください。
(安倍首相)
 民進党の皆さんだとは一言も言っていないわけで、自らに思い当たる節がなければ、ただ聞いていただければ良いんだろうと思うわけで、訂正でんでんという指摘は全く当たらない。

 蓮舫さんの攻撃的な口調に対し、安倍さんも自信たっぷりに胸を張り、声を張り上げ堂々と言い放った。

 訂正でんでん?
 一瞬、何を言ったのかよくわからなかった。

でんでん
①太鼓・鼓の音。
②太棹の三味線の音。転じて義太夫節の俗称。
──たいこ【でんでん太鼓】
「ふりつづみ」を模した玩具。小さい張子の太鼓に柄をつけ、左右に鈴などのついた糸を垂れて、柄を持って振れば、鈴は鼓面を打って鳴る。

でんでん【田田】
①この田あの田。転じて、物の連なるさま。
②蓮の葉の水面に浮かび並ぶさま。

でんでんこうしゃ【電電公社】
日本電信電話公社の略称。

でんでんむし【蝸牛】
カタツムリの異称。

 古い広辞苑を引くと、以上が「でんでん」に関する言葉だ。
 ちなみに電電公社はその後、民営化されてNTT(日本電話電信株式会社)となった。
 安倍さんは「訂正」に続く、「でんでん」にどのような意味を思い浮かべたのであろうか?

 田々ではないだろうし、もちろん電電公社でもなく、ましてや蝸牛ではないだろう。
 となれば、太鼓の「でんでん」か?
 いけいけ・どんどん、訂正でんでん・・・なんとなく勢いがある。
 ──民進党が、太鼓を打つように訂正をでんでんしろ、という指摘は全く当たらない。

 ?

 しばらく考えて、云々に人偏を付けて読んだことに気が付いた。
 訂正伝々。

 伝の音読みはデンだが、云の音読みはウンである。
 云の訓読みは「いう」で、少し古い文章には「云う」という表記がよく出てくる。
 もしかしたら、本ブログでも使ったことがあるかもしれない。

 云は、息や空気が曲折して立ち上がるさまを示す指事文字だと、漢和辞典には書かれている。
 指事文字というのは、数量や位置などの抽象概念を表わす文字で、一・二・上・下などがこれにあたる。
 云は、口の中で息がとぐろを巻いて口ごもることなんだそうだ。
 雲には云が含まれているが、雲は云の原字で、もくもくと上がる水気を指す。

 次の漢字も云が音符として含まれていて、同じような状態を表わしている。
 魂(コン、たましい)・・・もやもやとした亡霊
 耘(ウン、くさきる)・・・土をもくもくとこね返す
 紜(ウン)・・・糸がもやもやと乱れていること
 沄(ウン)・・・水が渦巻いて流れるさま
 
 さて、安倍さんが云と間違えた伝である。
 人がもやもやとしている様子?
 まるで、「訂正しろ」「訂正しろ」と太鼓をでんでん打つ人々が集う国会のようだが、残念ながら違う。

 伝は傳の略字で、転(轉)も同じ。云とは縁もゆかりもない。
 專の原字は叀で、丸い紡錘の重りをぶら下げたさまを描いた象形文字で、丸く転がるの意。
 傳は丸い物を転がすように伝えるの意味となる。
 つまり、訂正伝々は、訂正を次々と伝えていくということか?

 云は、口ごもって声を出すから、転じて、ものをいうという意味になる。
 これを重ねたのが云々で、

うんぬん【云云】
①引用文や語句のあとをぼかしたり省略するときに用いる語。
②あれこれ議論したり批評したりすること。
③詳細をぼかしたり、伏せたりするときに用いる語。
④(「…と云々」の形で)上に述べたことが引用や伝聞であることを示す。…という話だ。…と言う。(大辞林)

 安倍さんのでんでんは、①の意味のつもりだったのだろう。

 云は常用漢字には入っていない。安倍さんの世代なら当用漢字外で、学校では通常習わない。
 私も教科書で見た覚えがないので、本か何かで知ったのだと思う。
 安倍さんもどこかで云々の言葉に出合い、伝が傳の略字体とは知らずに、旁からデンと読み間違え、でんでんと思い込んでしまったというのが真相だろう。

 もっとも、ウンヌンという音はどこかで聞いていたはずで、それが云々と結びつかなかったということだろうが、安倍さんご自身、云々、あるいはウンヌンという言葉を、これまでに一度も使ったことがなかったのだろうか? と思うとちょっと不思議な気もする。
 誤ってでんでんと言っていれば、60余年の長い人生、どこかで間違いに気づいたり、誰かに間違いを教えてもらう機会もあったのではないか。

 漢字が読めないとからかわれた麻生さんとは、ここでも盟友だったのかと思いながらも、まあ所詮は漢字の誤読にすぎない。

ヨロンは世論か、輿論か(下)

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 世論は新語で、正しくは輿論だと、父が私に教えてくれた。
 古い広辞苑には、次のように書かれている。

よろん【輿論・世論】
世間一般の人が唱える論。社会大衆に共通な意見。(「世論」は本来セロンと読むべきであるが、ヨロンと読んで「輿論」と同様に用いる)

せろん【世論】
世間一般の議論。輿論(よろん)。せいろん。

 新語である世論が登場したのは、戦後の国語改革による。
 昭和21年の当用漢字表で使用漢字が大幅に制限され、輿の字も当用漢字から外れた。
 このため、輿論の代わりに世論が使われることになった。
 世論をヨロンと読むのは湯桶読みになるため、セロンの読みが与えられた。

 しかし、私の父をはじめ、これまで輿論を使ってきた多くの人たちにとって、セロンは「それ、どこの言葉?」くらいの意味しか持たない。
 言葉は国家が国民に与えるものでも縛るものでもない。
 誰もセロンを使わず、ヨロンを使った。
 父たちの世代は、頭の中に輿論の文字を描きながら、そして戦後世代は世論の文字を頭に描いたというわけだ。

 その結果、ヨロンもセロンも世論になった。
 ヨロンに世論の字を使うことが社会大衆に共通な意見、世論になったわけだ。
 それが証拠に、大辞林には次のように書かれている。

よろん【輿論・世論】
世間の大多数の人の意見。一般市民が社会や社会的問題に対してとる態度や見解。 〔「世論」と書くときは「せろん」と読む場合が多い〕
 
 セロンを使うジャーナリストは表外文字の輿論を使いたくなく、世論を本来の読みで使いたいということなのだろう。

 さて、今は使わない輿論だが、輿の字は比較的目にする機会が多い。
 輿の訓読みは「こし」で、屋形にした台に人や物を載せ、担いで運ぶ乗物のこと。神体を載せれば神輿となる。

 「輿」は、「車+舁」の会意兼形声文字。「舁」は4本の手を揃えて担ぎ上げるさまを表わし、車がついて、担ぎ上げて人や物を載せる台となる。
 みんなが力を合せて担ぐ意見、それが輿論というわけだ。

 ちなみに「世」は三十年間を意味する会意文字で、1世代のこと。
 人間の社会という意味にも使われるが、世論に「みんなの意見」という感じはない。
 ヨロンという言葉をよく使う安倍さん、頭に浮かんでいるのは輿論? それとも世論?

ヨロンは世論か、輿論か(上)

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 昨年末の日経新聞の世論調査で、内閣支持率が64%に上昇したという報道があった。11月の58%から6%上昇したという。
 安倍首相の真珠湾訪問が好感されたらしい。

 プーチン大統領来日後の共同通信の世論調査では、内閣支持率が54.8%と11月の60.7%より5.9%下落している。
 この時は、北方領土返還のお土産がなかったのが原因で、同じ内閣なのにわずか10日間で、支持率がジェットコースターのように上がったり下がったりする。

 ことほど世論調査なんて当てにならないという連れ合いに、ここで質問。
 世論調査は、何と読むか?

 最近のテレビのニュースでは、ヨロン調査と読むのが一般的のようだ。
 画面に、世論調査の文字が出ているので間違いない。
 各局のニュースを見ていないので言い切れないが、少なくともNHKではそう読んでいる。
 連れ合いもヨロン調査と答えた。

 以前、何かの番組である年輩のジャーナリストがセロンと言ったことがあった。
 それを聞いた連れ合いが、ときどきヨロンのことをセロンという人がいるのよね、なんか気持ち悪いのよね、と言ったことがあった。
 それを思い出して、改めて連れ合いに確かめてみた。

 セロンって、漢字でどう書くか、知ってる?

 連れ合いは知らないと答えた。
 連れ合いは私よりもいくつか年下なので、タイムラグがあったか、あるいは先生の話をよく聞いていなかったのだろう。

 セロンは漢字で世論と書く。
 私が小学校で初めて世論という言葉を習った時、セロンと読むように指導された。
 NHKのニュースでもセロンと読んでいた。

 ただ、私の両親は、新聞に世論と書かれていてもセロンなどとは読まずに、ヨロンと言った。
 なぜかというと、両親はセロンという言葉を知らなかったし、使ったこともなかった。
 その時、父が私に教えてくれた。世論は新語で、正しくは輿論なのだと。



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