知らぬ顔の半兵衛と藪の中


 不祥事が次々に起きる。
 政界では、今年は首相官邸が主役、内閣府・財務省が脇役のモリカケ問題に始まり、モリカケ問題で一年が暮れる。
 忖度は流行語大賞まで獲得してしまったが、「忖度について忖度する」で3回に渡って書いた。

 経済界では、9月の日産自動車の完成車検査不正に始まり、神戸製鋼所の品質データ改竄、スバルの完成車検査不正、三菱マテリアル子会社の品質データ改竄と、有名企業の不祥事が次々と発覚、日本のモノづくりの信頼が揺らいだ。

 不祥事は相撲界にも飛び火し、最近の専らの話題は日馬富士の暴行問題。相撲協会の内部対立が浮き彫りとなり、直ぐには鎮火しそうにない。

 共通するのは、何れも根が深そうで、真相がよくわからないこと。
 また、閉鎖的な組織となっていて外に対して明朗でなく、身内や組織を守ろうとする隠蔽体質が顕著なこと。
 ・・・と、ここまでは前回流用である。

 前回の「不祥事」に続き、今回は「藪の中」について考える。

ふしょうじ【不祥事】
好ましくない事件。いまわしい事柄。 (大辞林)

 マスコミなどでの使われ方に比べて語義が意外に軽いので、より現代用法に近いデジタル大辞泉の語義を載せておく。

ふしょうじ【不祥事】
関係者にとって不都合な事件、事柄。

 そうだ、「関係者にとって不都合」、これだ。
 だから関係者は、これを闇に葬ろうとする。知らぬ顔の半兵衛・・・

しらぬかおのはんべえ【知らぬ顔の半兵衛】
知らん顔をして少しも取り合わないこと。そしらぬふりをすること。(大辞林)

 半兵衛は戦国時代の美濃の武将・竹中重治のことだそうだが、今ならさしずめ「知らぬ顔の晋三」か。
 さて、いずれの不祥事も藪の中の出来事で、真相があやふやなまま、いずれ人の噂も七十五日となる。

ひとのうわさもしちじゅうごにち【人の噂も七十五日】
世間の噂も一時のことで、しばらくすれば忘れられてしまう。(大辞林)

 そうはさせじと野党は国会で追及するが、衆院選与党大勝では無力感だけが漂う。
 若乃花親方が相撲協会に対して強硬に突っ張るのも、藪の中で終わるのを懸念してのことなのかもしれない。

 「藪の中」は、芥川龍之介の小説『藪の中』が語源とされる。

やぶのなか【藪の中・薮の中】
関係者の言い分が食い違っていて、真相がわからないこと。(大辞林)

 小説は、今昔物語を題材とした物語で、殺された侍をめぐって7人の証言が順に語られる。
 内容はそれぞれに異なっていて、真相がわからないことから、これを称して「藪の中」といわれるようになった。
 小説の解釈をめぐって文学界の論争の的となったが、所詮、真相は主観の中にしか存在せず、誰にも真実はわからないという不可知論なのかもしれない。

 芥川の小説は青空文庫でも読めるが、一度は観たことがあるかもしれない黒澤明のヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞作『羅生門』(1950)が、この小説を原作に使っている。

性的マイノリティのカムアウトは、「出る杭は打たれる」か?(下)

 人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書「出る杭は打たれる:日本の学校におけるLGBT生徒へのいじめと排除」の続き。
 LGBTは、Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシュアル)、Transgender(トランスジェンダー)のそれぞれの頭文字を採った総称のこと。

 「出る杭は打たれる」の二番目の語釈として、大辞林と大辞泉は次のように書いている。
(大辞林)よけいなことをする者は他から制裁を受ける。
(大辞泉)さし出たことをする者は、人から非難され、制裁を受ける。

 カムアウトすること、あるいは報告書の漫画にある全国高校生スピーチコンテストや校内新聞に発表することが、「よけいなことをする者」「さし出たことをする者」にあたるのだろうか。
 別に揚げ足を取ろうとか、報告書に難癖をつけようとか思っているわけではない。
 LGBTの人たちの人権を主張しようとする団体が、「出る杭は打たれる」といった日陰者のような表現を使うことが気になったのである。

 出る杭ではなく、人間誰もが主張できる当然の権利なのではないのか?
 天皇や皇族の方々だって、私たちにも人権があると控え目ながらも主張されているではないか。
 それとも、そうした主張を「出る杭」だと考える輩がいるということなのか?
 ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書の「出る杭」には、そうした深い意味が籠められているということなのか?

 LGBTの人たちに対する差別意識が、私にまったくないかといえば嘘になる。
 だから、ここでは、私がこれまでに見て印象に残った、LGBTがテーマの映画を紹介しておくに留める。


『噂の二人』
 1961年制作のアメリカ映画。ウィリアム・ワイラー監督の1936年の映画のセルフ・リメイクで、オードリー・ヘプバーンとシャーリー・マクレーンが主演している。
 二人は戦前の私塾のような私立女子校を共同で経営しているが、シャーリー・マクレーンがヘプバーンに愛情を抱きカムアウトする。
 親友としての感情しか持っていなかったヘプバーンが取り乱すのを見てマクレーンは自殺してしまうが、同性愛が罪悪とされ、抑圧されていた時代に、その罪深い思いに気づいた女と、それを上手く受け止められない女の二人の心の機微を描いた好編となっている。

『ブロークバック・マウンテン』
 2005年制作のアメリカ映画。アン・リー監督で、 ヒース・レジャーと ジェイク・ギレンホールが主演している。
 保守的なアメリカ中西部が舞台で、カウボーイの二人が愛し合うようになるものの、差別を怖れてそれぞれに結婚をし、人目を避けての密会を続ける。
 悲しい結末となるものの、家族に二人の関係を許されるという心温まるラストで、社会の偏見の中で禁断の恋を貫いた男の孤高の人生の物語となっている。

『リリーのすべて』
 2015年のイギリス・アメリカ・ドイツの合作映画。トム・フーパー監督で、世界で初めての性転換手術を受けたデンマークの画家の伝記映画。
 結婚後、性同一障害であることに気付き、女性への変身を切望する女心を、エディ・レッドメインが熱演する。
 性転換を望む夫を理解し、妻の立場を失うことになることを承知で支える妻をアリシア・ヴィキャンデルが演じ、アカデミー助演女優賞を受賞している。

性的マイノリティのカムアウトは、「出る杭は打たれる」か?(上)

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 少し前のことだが、NHKのニュースで、人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチが出した性的マイノリティの生徒についての報告書「出る杭は打たれる:日本の学校におけるLGBT生徒へのいじめと排除」を取り上げていた。
 他のことをしながらテレビを点けていたので、きちんと見ていたわけではない。
 ただ、性的マイノリティの子供たちが、自分は性的マイノリティであることを周囲に明らかにすること、いわゆるカムアウトについて、「出る杭は打たれる」と表現していることに違和感を覚えた。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチのホームページに、報告書の説明があるので、そのまま引用しておく。

 ──今回の報告書『出る杭は打たれる:日本の学校におけるLGBT生徒へのいじめと排除』(全84頁)は、LGBTの子ども・生徒をいじめにさらし、情報や自己表現へのアクセスを妨げる原因のひとつとなっている日本政府の政策の問題点について分析。日本の学校では残忍ないじめが広く起きている。だが国のいじめ防止基本方針では、いじめ被害を最も受けやすい集団のひとつであるLGBTの子ども・生徒を明記せず、基本的権利より規範意識の推進をうたっている。LGBTの子どもたちはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、教師から、ゲイやトランスジェンダーであることをオープンにして学校生活を送ることは自己中心的だとか、学校生活がうまくいかなくなるなどと注意されたと述べた。

 LGBTは、Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシュアル)、Transgender(トランスジェンダー)のそれぞれの頭文字を採った総称のことだそうで、こういう言い方があることを初めて知ったくらいだから、私のLGBTについての理解度もたかが知れている。

 報告書の内容はヒューマン・ライツ・ウォッチのホームページから読めるが、若干長いので、要約したPDAファイルにリンクを張っておく。こちらの方が読みやすいかもしれない。

 さて、ヒューマン・ライツ・ウォッチの方々には申し訳ないが、本題は「出る杭は打たれる」の国語的解釈についてである。

でるくいはうたれる【出る杭は打たれる】
 〔「出る釘くぎは打たれる」とも〕
 ①頭角を現す者はとかく他の人から憎まれ邪魔をされる。
 ②よけいなことをする者は他から制裁を受ける。(大辞林)

 デジタル大辞泉の方も、①②とも同じ意味が書かれているが、むしろこちらの方がわかりやすいかもしれない。

でるくいはうたれる【出る杭は打たれる】
 《「出る釘は打たれる」とも》
 1 才能・手腕があってぬきんでている人は、とかく人から憎まれる。
 2 さし出たことをする者は、人から非難され、制裁を受ける。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書は、どちらも2番目の意味で使われている。
 しかし・・・



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