汚染を封じ込めることのできなかった豊洲新市場

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 おそらく誰もが想定外だっただろう。
 私も、16/11/14「豊洲から考える埋立地の安全性(1)」にこう書いた。
 ──落としどころは、専門委員会が改めて安全性を確認し、今後の安全対策を決めて開場ということになるのだろう・・・

 先週1/14に公表された豊洲新市場の第9回地下水モニタリング調査結果は、改めて安全性を確認するどころか、環境基準値の最大79倍というベンゼン、3.8倍のヒ素、検出されてはならないシアンまで検出してしまった。
 都知事の小池さんも、豊洲市場の専門家会議も、築地市場関係者も、あるいは頭の黒い鼠たちも唖然としたことだろう。

 新聞記事のインタビューで、ある仲卸業者の人が、「汚染された土は入れ替えられていたと思っていたのに」と話をしているのを読んで、あれっ?と思った。
 「豊洲から考える埋立地の安全性(4)」に書いたが、基本的には入れ替えられたのは地表から2mの深さまでの土で、それより下の土は汚染状況に応じて除染をしている。(豊洲新市場予定地の土壌汚染対策工事に関する技術会議報告書

 沖積層基底面は浅いところで-6m、深いところで-34mあり、東京ガスの工場が32年間稼働していたことを考えれば、沖積層基底面まで地下深く、広く土壌が汚染されていると考えるのが自然で、汚染土はもとの地表から深さ2mと、盛土2.5mで蓋をされているだけに過ぎない。
 あとは、都が委託した土木会社が実際にどこまで汚染土の除染を行ったかだが、汚染土を全部入れ替えることはしてないし、不可能でもあるわけで、汚染の元は絶たれていない。

 これもテレビだったが、豊洲は安全か? という設問をしていたが、これも間違いで、豊洲の安全性は高いか? 低いか? という設問でなければならない。
 汚染のもとを絶つことができない以上、安全か? という設問は成り立たず、汚染を封じ込めることができるかどうかという、安全性の高低でしかない。

 安全性が高いといっていた都の説明が当てにならなかった、というのが今回の地下水モニタリング調査結果で、
 ──これだけ厖大な資料で説得しなければならないほど、豊洲新市場には安全性に問題があるということで、なぜそんな不適切な場所を選んでしまったのかということになる。
と、「豊洲から考える埋立地の安全性(4)」に書いた通りになってしまった。

 9月に地下空間が発覚したとき、地下空間があることが危険だというような議論になって、方向性がずれているような気がしたものだ。
 危険なのは地下空間の存在ではなく汚染土壌の存在なのに、報道するマスコミは問題を矮小化させていた。
 そもそも、盛土が計画通り行われて、地下空間がなければ安全だったのか?
 そうではない。それが証拠に、今回の地下水モニタリング調査の結果は、地下空間があってもなくても関係がなかった。

 ふと気がついて、私の子供に訊いてみた。
「豊洲がなぜ汚染されているか、知っている?」
「埋立地だからでしょ? ゴミとか・・・」

 灯台下暗し。
 我が子にして、豊洲の汚染の原因を知らなかった。それもそのはず、東京ガスの工場が稼働していたのは28年前までのことで、若い人たちが知らないのも道理といえる。
 
 東京ガスの工場が32年間稼働していて、汚染物質を垂れ流していたことを教えると、そんな場所に生鮮市場を作ることに驚いていた。
 それもまた若い人にとっては想定外ということだろう。

 豊洲には液状化の危険性もある。(「豊洲から考える埋立地の安全性(3)」)
 首都圏の直下地震が起きて地下水が地表に噴き出したとき、その地下水が汚染されていて豊洲市場が使い物にならなくなる可能性もまた、今回の地下水モニタリング調査結果は示した。
 時計の針を止めて、豊洲市場移転についてもう一度よく考えてみる絶好の機会だ。

豊洲から考える埋立地の安全性(5)

      
東京港の変遷_国交省関東整備局 (391x500)
東京港埋立の歴史(国交省関東整備局「東京港の変遷」より)
東京臨海部における埋立ての歴史 (294x367) 東京臨海部における埋立ての歴史 (2) (296x376)
江戸期開始前の海岸線(左)と、現在までの埋立地(右)
(東京都港湾局資料より)

 歴史を振り返れば東京は埋立によってできた町ということもできるかもしれない。
 徳川家康が、なぜ江戸に幕府を置いたかというのは諸説あるが、いずれにしても城下町を形成するには土地が不足していたことは間違いない。

 その頃の江戸は、江戸城のある紅葉山から下は干潟や浅瀬の広がる、まともに人の住めるところではなかった。
 皇居には吹上御所があるが、もとは地名で、入江に面して海風が吹上げるところというのが由来という説がある。
 江戸時代、酒井忠昌が書いた『南向茶話』には、駿河冨士川、武州荒川、小石川にも、川に面して吹上という地名があると書いてある。

 家康は江戸湊の干潟や浅瀬に目をつけて、埋め立てれば大きな城下町が造成できると考え、神田山を切り崩した。
 最初に埋め立てられたのは皇居前の大手町から新橋にかけて、次に神田から銀座にかけての大きな砂洲に面した日本橋・京橋・東銀座から築地へと埋立地を広げていく。
 町ができれば人も増えて、隅田川河口の深川から埋立地が広がり、低湿地をゴミ捨て場にして中川河口に向かい、さらには新田開発へと進んで行く。

 こうしてできた江戸期の埋立地の多くは、200~400年の歳月によって地盤が固まり、液状化の可能性はあるものの比較的低い。
 明治から昭和始めに埋め立てられたのは、月島・勝どき・豊海・晴海・塩浜・枝川・東陽町・潮見、新砂・豊洲の一部。
 戦後の埋め立ては、塩浜・新砂・豊洲・東雲・辰巳・夢の島・有明・新木場・若洲・青海・台場・東八潮。
 港区以南、国道15号線の東は明治以降、戦後にかけて順次埋め立てられている。

 一般には年代が新しいほど液状化しやすいが、戦後までの埋め立てに比べて、近年は地盤を考慮した埋め立てをしているので、むしろ液状化の可能性は低くなっている。

 ただ、埋立地の問題は液状化だけではない。
 地続きでなく橋梁で本土と結ばれている埋立地では、災害時に陸の孤島化することも考慮しておく必要がある。
 電気・ガス・水道・道路・通信といったインフラが寸断すれば復旧には長い日数がかかる。
 ウォーターフロントには高層マンションも多く、水平だけでなく垂直への連絡が断たれた場合、生活が成り立たなくなる。
地理院地図_豊洲 (367x275)
橋が埋立地の生命線(出典:国土地理院)

 中央防災会議の想定では、首都直下地震が起きた場合、電気の供給が最長1週間5割に落ち、計画停電も必要になってくる。
 固定電話の復旧に1週間、携帯電話は繋がりにくくなるだけでなく、基地局の停電で使用エリアが縮小する。
 上水道は5割で断水、復旧に数週間、トイレも使えなくなる。下水道の被害、ガスの供給停止、ガソリンの供給停止等々。交通網が遮断されれば、生活物資などの物流が途絶える。

 豊洲と命名されたのは1937年(昭和12)で、地名の由来には諸説あるそうだが、「豊かに栄える島」との願いを込めてというのが最も妥当に思える。
 致命的なイメージダウンを経て新市場は、埋立地の豊洲に「豊かに栄える島」をもたらすのだろうか。

豊洲から考える埋立地の安全性(4)

                  
豊洲19441016国土地理院8910-C1-11 (367x273)
1944年10月16日撮影、海だった時の豊洲(中央)の空中写真
(出典:国土地理院 地図・空中写真閲覧サービス)
地層断面図_豊洲 (2) (367x209)
豊洲新市場の地層断面図(東京都中央卸売市場資料より)
沖積層基底図_豊洲 (367x245)
豊洲新市場の沖積層基底図(東京都中央卸売市場資料より)
地下水位図_豊洲 (367x222)
豊洲新市場の地下水位図。水色が0~1m、緑が1~2m、青は水面。
中央の水色が豊洲新市場(東京都建設局・液状化予測図より)

 東日本大震災では、豊洲新市場第5街区と第6街区、青果棟と水産仲卸売場棟の用地だったところで噴砂があった。
 東京都建設局の液状化予測図では、豊洲新市場は「液状化の可能性のある地域」となっているが、中央卸売市場の専門委員会では、地盤の液状化対策と地下水を低位に保てば液状化の怖れはないとしている。

 東京都の地質調査データ・「地盤に関する考察」を見ると、豊洲の沖積層基底面は浅いところで-6m、深いところで-34mある。
 これより上は沖積層および埋め立て土砂で、この層が汚染された土壌で、かつ液状化が懸念される地層となる。 
 東京都では8か所でのボーリング調査の結果を公表しているが、地質調査データ・「液状化の予測・判定」を見ると、埋立による人工地盤は概ね10m前後で、浅いところでも4mある。
 盛り土は、埋立面から2m掘り下げ、4.5m盛土することになっている。つまり、2.5mは元の人工地盤に嵩上げしている。

 実際、砂や粘土の浚渫土で造られた豊洲の地盤は、地下水が溜まりやすく液状化の条件は整っている。
 地下水位分布図をみても、0~1メートルで掘ればすぐ水が出るくらいに地下水位が高い。
 これを地盤固めと盛土による嵩上げ、地下水の排水で、上部の地層が液状化しないようにしているが、対策を施していない市場周縁部の液状化と、それが市場に及ぼす影響には触れられていない。

 液状化対策はなされたにしても、汚染された土壌からベンゼンなどの化学物質が地下水とともに上昇する可能性は当然あり、第1回専門家会議資料・「盛土がなされなかった経緯」を読むと、万一に備えて地下空間を確保する必要性は2008年(平成20年)から考えられていた。
 そこに2011年3月の東日本大震災が起きた。

 30年以内の発生確率が70%とされる首都直下地震が発生すれば、東日本大震災同様にこれらの対策を上回る想定外の事態が発生するかもしれない。
 東京都の技術系職員がそのような危惧を抱いたとしても、当然かもしれない。
 地下空間を確保するために盛り土をしない方針に固まったのが2011年8月にというのにも符合する。

 想定外のことが起きなければ、基準を上回る汚染水が敷地内の土壌に浸水することも上昇することも起きない。首都直下地震が起きて敷地内で液状化が発生することも、人工地盤が破壊されることもない。
 東京都中央卸売市場・「豊洲市場について」の各種資料を読むかぎりでは、安全性は担保されているように思える。

 先月8日、福岡市で道路が深さ15m陥没した。地下鉄工事で岩盤に穴が開き、その上の地層から地下水と土砂がトンネル内に流れ込み、地面に空洞が空いたと考えられている。
 福岡市の地層については手許に資料がないが、事故現場は博多湾河口近くの那珂川と御笠川に挟まれた場所で、河川によって運ばれた土砂が堆積した砂洲であることは容易に想像できる。
 東京下町の低地と同じように洪積層の上に粘土質からなる不透水層、その上に土砂と地下水からなる地層が載っている。地震ではこの地層が液状化する。

 陥没した穴にはコンクリートを混ぜた土砂を入れて地盤を固め、地盤低下しにくいようにした。
 埋立地といっしょで柔らかい土を入れると隙間があって地盤が低下する。ある程度固まるまでには100年以上かかる。
 それでは困るからコンクリートを混ぜ、プレス機で圧縮して隙間をできるだけ埋め、地盤を固めるようにする。
 ところが半月後の26日に、再び地盤低下を起こした。市民に予め知らせなかったのはまずいが、最大7㎝の評価は別にして予想されたことだ。

 翻って豊洲の液状化対策工事に当てはめた場合、技術会議が言っているように被害の怖れがないと断言できるのかはわからない。

 それでも漠然とした不安は残るし、多くの都民がそう思うからこそ、東京都もこれだけ厖大な資料をそろえて安全性を訴えているわけだ。
 逆説的にいえば、これだけ厖大な資料で説得しなければならないほど、豊洲新市場には安全性に問題があるということで、なぜそんな不適切な場所を選んでしまったのかということになる。

 埋立地なら液状化の危険性はどこも似たり寄ったりで、海に近く築地にも近いとなれば、候補は周辺の埋立地しかない。
 晴海もあれば、有明もある。何も土壌汚染のひどい東京ガス工場跡地をわざわざ選ぶこともなかったわけだ。



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