言葉の重さと、我が存在の軽さについて

 ブログを始めて、ちょうど1年が経った。
 私は、これまで日記というものをつけたことがなかった。正確にいえば、つけようと思ったことは何度かあったが、いずれも三日坊主で終わった。禁煙も3度試みたが、すべて失敗した・・・根性なしなのである。

 小学校に上がる前後に、近くに教会があって、そこが習字教室をしていた。母は、悪ガキの行儀作法も兼ねてか、その習字教室に私を通わせようとした。しかし、1回か2回通っただけでその塾をやめてしまった。硯(すずり)で墨を擦るのが面倒くさかったし、そもそもじっとして字なんか書いていられなかった。
 しかもその教会には、私と同い年のすこぶる気の合わない男の子がいて、しょっちゅう取っ組み合いの喧嘩をしていた・・・まあ、大抵は私の方から喧嘩を仕掛けたのだけれども。
 ヤツは私と違って、小学生になってもNHKの「ブーフーウー」などというお子様健全番組を観るような、きわめて品行方正な優等生だった。

 小学校二、三年の頃だったろうか、今度は算盤(そろばん)塾に行かされた。しかし、これも1回しか行かなかった。母は文房具屋を開いていて、店には大きな五つ珠の算盤があったのだが、私は専らそれをローラースケートにして遊んでいた。計算のために算盤の珠を弾くなんて、まったく性に合わなかった。

 まあ、子供の頃からの根性なしで、夏休みの宿題の絵日記も8月の終わりにまとめて書くような有様だった。

 この歳になると、記憶力がだんだん衰えてきて、物忘れをするようになる。夜になると、午前中に何をしたのか思い出せなかったりする。1分前に考えていたことが思い出せなかったりする。もうボケの兆候が現れているのか? そう思うと、ちょっと心配になってきた・・・
 去年は脳トレ・ブームで、クイズ形式のゲームソフトや「奥の細道」などを書写する脳トレ本が良く売れた。購買層の中心は、50代なのだそうだ・・・みんな、ボケ恐怖症に罹っているのか?

 生まれて半世紀以上経つと、積み重なった過去の出来事がなかなか思い出せなくなってくる。ボケ防止というわけでもないけど、ここらで過去を振り返って、覚え書きを書き留めてみても良いかもしれない・・・そう思い立ったのが去年の正月だった。世の中はブログブームだ。
 トラックバック、何んだそれ? コメントって、掲示板とどう違うんだ? まあ俺だって、ブログくらいできるんじゃねぇか? とりあえず頭がボケないうちに、思い出せるうちに、昔あった事をブログに書いてみようか・・・

 書かなかった過去の日記を、今から書く・・・

 紙に書くよりはキーボードを叩いた方が遥かに楽だし、少ない人でも読んでくれる人がいれば書く励みにもなる。根性なしの私でも、読んでくれる人がいれば継続しなければならないという義務感に駆られる。
 書くこと自体はさほど苦でもないし、ブログで気ままに書いてみるのも楽しいかもしれない・・・

 ブログを始めようと思い立って、最初に考えたのが三日坊主で終わらせないための工夫だった。
 つらつらと思うままに書くったって、意外と難しいんじゃないか? 兼好法師じゃないんだから、そう簡単には「つれづれなるまゝ」には書けねぇぞ。かといって、テーマを決めてしまうと、段々書くことに詰まってきて、書くために別の努力を払わなくちゃならなくなるからな・・・
 どうしたら、三日坊主で終わらない覚え書き、過去の日記を書けるかな?

 そこで思いついたのが、日々目にする、耳にする言葉をキーワードにすれば、そこからずるずると過去の記憶を引き出せるかもしれないということだった。それなら書き続けることができるかもしれないし、ブログとしても多少の格好がつくかもしれない・・・

 「新明解言葉辞典」というのは、もちろん三省堂の新明解国語辞典のもじりである。
 国語辞典は言葉の意味や用法を簡潔に説明するものだが、言葉辞典は言葉から連想される事柄や心象について述べる言の葉の辞典である・・・と勝手に定義した。

 このブログのタイトルの下に、「やまとうたは人の心を種としてよろづの言の葉とぞなれりける」という紹介文がある。これは、古今和歌集の紀貫之による仮名序の冒頭の一節から取っている。日本の歌(和歌)は人の心を種として、葉が出るようにたくさんの言葉となったものだ・・・という意味である。
 古今和歌集の仮名序には、続けて、和歌は世の中で心に思うこと見聞したことを歌として表現するものだと書かれている。

 言葉の意味については、Yahoo!やgooのネット辞書を調べれば、簡潔に意味が書かれている。わざわざブログで説明する必要もないし、そもそも国語学者でもない。
 この言葉辞典では、古今和歌集の仮名序にあるように、人の心の種から芽を出し、葉となった言葉、言の葉について、頭の中に埋もれている過去の記憶を引っ張り出して、その頃に思ったこと、そして今思うことを書いてみよう・・・
 そうすれば、俺の過去の日記が書けるんじゃないか・・・

 この1年間、そのような私の目論見が上手くいっているのかどうか、ちょっと心もとない。私の性癖を良く知っている子どもは、「そのうち、ネタに困って書けなくなるんじゃないの?」とほざいていたが、三日坊主にはならなかった。一年ともたなかった禁煙に比べれば、快挙である。

 もっとも、ずるずると記憶を引っ張り出しているうちに、文章も長くなってしまった。初めのうちは短くまとめようとしていたが、書き足りない気がして段々長くなってしまった。
 ブログとしては掟破りの長さである。読む方だって長い文章は嫌になる。言葉の意味を調べに来た方の多くは、文字の多さにたぶん当惑されているはずである。
 それだけに、この長い文章にお付き合いいただいている方には、本当に感謝している・・・

 ちなみに、「言葉」の語源は「言端(ことは)」だそうである。
 もともと言語というものは話し言葉で、初めに文字を持っていない。「こと」という語には、事実を意味する(こと)の意味と、口から出る言葉を意味する(こと)の意味とがあった。発した言葉には、事実と同じだけの重さがあったのである。

 古代には洋の東西を問わず、言葉は事実を招来すると考えられ、祝詞(のりと)や呪文なども、言葉には物事を実現する力があると考えられていたからだといわれている。合理的な考えを持つ現代の私たちから見れば、それらは呪術的、あるいは魔術的な超自然的なものと映るが、古代の人々はそうは考えていなかった。
 禁句(タブー)も同じで、その言葉を口に出すことによって不幸な事実、好まざる結果を招くと考えられていた。そのために、その言葉を口にすることを禁じたのである。

 言の端(ことのは)という言葉は、言(こと)の持つそのような力を軽くするために生まれたのだそうだ。万葉集には言羽(ことは)という表記もあるそうで、端にしても羽にしても事(こと)の呪縛を断ち切りたいという思いが表れている。
 同じように軽さを持った言の葉、そして言葉が一般的に使われるようになったのは、古今和歌集の仮名序の影響が大きいのだそうだ。

 軽くなった言の葉・・・だからというわけでもあるまいが、言葉を大事にしない口先だけの人も世の中には多い。
 それでも言葉は、刃物のように人を傷つけることもできるし、人を元気づけることもできる。人を悲しませることも、人を笑わせ、人を幸せにすることもできる。
 言葉にはたくさんの思いが籠められていて、たくさんの思い出が籠められていて、国語辞典では説明できない大切なものが言葉にはある。
 言葉は決して軽くなどない・・・

 「とか言って、口先ばっかり・・・あなたの言葉が軽いのは、この私が一番良く知っているのよ!」
 ・・・これを読んだら、連れ合いはたぶんそう言う。

コメントの投稿

非公開コメント

No title

一年継続、おめでとうございます。

「ことば」に関するもので
讃美歌の中にあったのですが

「心あえば言葉もあい
一つの祈りを捧げまつる」
という一節が好きです。


私も、自分のブログが、
長めかなと思いながら書いていますが、
こちらへ伺い、お仲間がいると、
少し安心しています。

NANAEさん、楽しみにしておりますので、
これからもよろしくお願いします。


著書の紹介
▼本ブログ運営者の近著です。
リンク
▼運営者の関連サイトです。



▼オンライン辞書
goo辞書  YAHOO!辞書  infoseekマルチ辞書
weblio辞書  @nifty辞書  英辞郎on the WEB

▼参加しています。
ブログランキング・にほんブログ村へ

サイト案内
調べたい言葉を、下の窓に入れて検索ボタンを押してみてください。
もしかしたら、その言葉について書かれた記事が見つかるかも・・・

▼本ブログについての説明・・・
「言葉の重さと、我が存在の軽さについて」  (2007/2/3)
最新記事
最新コメント
カテゴリ
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
月別アーカイブ
運営者

七会 静 (ななえ・しずか)

▼著書
「ハリー・ポッター」のホントの魔法事典 (廣済堂PB)
よくわかる「世界の死神」事典 (廣済堂文庫)
ナルニアへの旅 (主婦と生活社)
幻の錬金術師列伝 (主婦と生活社)
ハリー・ポッターの魔法ガイドブック愛蔵版 (主婦と生活社)

(c)NANAE SHIZUKA

メールフォーム

▼運営者への連絡にお使いください。

お名前:
メールアドレス:
件名:
本文:

RSSリンクの表示
QRコード
QR
お知らせ
▼更新は、現在週1回程度を予定しています。
▼本ブログではFC2アクセス解析を行っています。
▼2006/6/30以前の記事は JUGEM ブログ、2011/9/30以前の記事は忍者ブログに掲載していたものです。2011/9/30以前のコメントには、移転時に一部欠落してしまったものがあります。またコメントに対しての運営者の返事はすべて欠落しています。コメントをいただいた方には、ご了承をお願いします。
▼上記移転時に、一部レイアウトの乱れているページがあります。またリンクが正しくないものがありますが、ご了承ください。
▼不適当と判断されるコメントは、断りなく削除することがあります。
▼トラックバックは受け付けていません。
▼本ブログでは著作権法の権利を保持しています。記事および写真の無断での複製・転載・送信・翻訳等はできません。
▼記事の一部を引用する場合は、本ブログからの引用であることを明記し、上の欄のメールフォームでご連絡ください。
▼リンクはフリーです。