辞書も偏向するのか? 中国寄りと抗議された広辞苑(3)

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 広辞苑の「日中共同声明」の項には、日本政府が台湾が中国に帰属することを「実質的に認め」たと書かれている。
 第5版までは、「承認」だった。
 では、日中共同声明にはどのように書かれているのか? 帰属について触れた第3項を引用する。

三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。

 ポツダム宣言第8項というのは、敗戦後の日本の領土を規定したもので、台湾など日本が中華民国に返還した清国領土をいっている。
 ポツダム宣言では台湾は中華民国領土であるため、中国政府はこれが中華民国ではなく中華人民共和国に属することを日本政府に主張し、日本政府はその立場を「理解し、尊重し」、台湾についての日本の主権放棄を再確認したということになる。

 これをもって、日本政府が台湾の中国への帰属を承認したというのは誤りで、広辞苑もそう考えたから記述を改めた。
 しかし、中国の立場への「理解・尊重」が、台湾の中国への帰属を「実質的に認めた」というのもいささか無理があって、他の出版社の辞書は帰属問題に触れていない。

 「認める」「理解・尊重」の語釈については、当の広辞苑にお願いしよう。

認める【認める】みとむ【認む】
①よく気をつけて見る。
②目にとめる。
③見て判断する。
④見てよしとする。かまわないとして許す。

りかい【理解】
①物事の道理をさとり知ること。のみこむこと。了解。
②(略)

そんちょう【尊重】
とうとび重んじること。

 「認める」の語釈は、ここでは④である。
 「許す」と「のみこみ、尊び重んじる」では、意味が違う。

 1952年の日華平和条約で、日本と中華民国との国交が回復した際、蒋介石政府は対日賠償請求権を放棄した。
 蒋介石の対応が中国本土の共産党政府からの台湾防衛の方策とはいえ、当時の日本がこれに感謝したことは広く知られたことだ。

 1971年の国連決議で、常任理事国が中華民国から中華人民共和国に移り、台湾が国連から追放されると、各国は雪崩を打って共産党政府を承認した。
 72年のニクソン・ショックを経て、日本も共産党政府と国交を樹立、台湾との国交を一方的に断絶した。

 この時、保守派を中心に台湾への信義を欠いたと感じた日本人も多く、当時の田中角栄内閣は日中共同声明の文案づくりの中で、台湾は中国に帰属するという中国政府の主張に対し、台湾政府に最大限配慮する形で、「承認」ではなく「理解・尊重」という文言にした。

 広辞苑編集部が、このことを知らないはずはない。

辞書も偏向するのか? 中国寄りと抗議された広辞苑(2)

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 台湾が広辞苑の記述について抗議した。
 2点あって、一つは「中華」の見出しに収録された地図に台湾が台湾省と記載されていること。
 もう一つは、「日中共同声明」の見出しに、台湾が中国に属すると書かれていること。

 まずは、地図から。
「中華」の見出しを親項目として、子項目の複合語の中に中華料理、中華民国などと並んで中華人民共和国がある。
「中華人民共和国」の説明はほぼ歴史的なものでこれを省くが、「中華人民共和国行政区分」と題された地図が挿入されていて、これが中国の主張に沿って台湾を台湾省と表記している。

 中華人民共和国の説明の補足ならば、それが中国の主張する地図であっても問題はない。
 ならば、同じ子項目として並んでいる「中華民国」にも、台湾政府の主張する行政区分地図を入れるのが公平というものだ。

 中華人民共和国行政区分には意味があっても、中華民国行政区分には意味がない。
 おそらく広辞苑はそう考えているのだろう。
 ならば、台湾だけでなくチベットやウイグル、香港などの独立問題を抱える中華人民共和国行政区分図を、敢えて注釈なしに載せる理由は何か?
 それについては後述する。

 次に、台湾の帰属について。
 「日中共同声明」の見出しには、問題の箇所は次のように書かれている。
 ──日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と承認し、台湾がこれに帰属することを実質的に認め、中国は賠償請求を放棄した。

 ちなみに広辞苑第5版にはこう書かれている。
 ──日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と認め、台湾がこれに帰属することを承認し、中国は賠償請求を放棄した。
 つまり台湾の中国への帰属について、日本政府が「承認」から「実質的に認め」に変わった。
 報道によれば、広辞苑第6版が2008年1月に刊行された直後、日本李登輝友の会が訂正を求め、2刷から現行表記に改まったという。

 もっとも台湾政府は、これでも不十分としている。
 では、日中共同声明にはどのように書かれているのか? 

辞書も偏向するのか? 中国寄りと抗議された広辞苑(1)


 広辞苑の第7版が発売されたそうだ。
 話題の中心はブラック企業だとかLGBTなどの新語の収録だったが、一つ気になるニュースがあった。
 台湾が広辞苑の記述について抗議したのだという。

 新聞記事を引用すれば、中華人民共和国の行政区分を示す地図に、台湾が「台湾省」と記載されていること、もう一つは日中共同声明の説明に、台湾が中華人民共和国に属すると書かれていることについて、広辞苑の修正を要求したのだという。

 この記述は今回新たに加わったわけではなく、これまでの版にもあったそうで、岩波書店は型通りに「誤りとは考えていない」と回答している。
 付け加えれば、中国外務省はもちろん「台湾は中国の一部」と広辞苑を擁護したそうだ。

 何せ、日本で最も権威があると一般には思われ、岩波書店自身も自認している広辞苑だ。
 以前、「広辞苑の自画自讃─守りたい日本語」に、広辞苑のwebサイトに「日本語辞典の最高峰」と自画自讃している書いた。

 改めて第7版のwebページを覗いてみると、日本語の規範だとか、日本語の守護者だという表現はさすがに不遜だと思ったのか、他人の言葉を借りながら権威付けをしているが、「国語+百科辞典の最高峰、国民的辞典と言われるまでに成長しました」という自画自讃のスタンスは変わらない。
 まあ、宣伝だから仕方がないのだけれども・・・

 別に広辞苑が他よりも劣っているとは思っていないし、私も愛用している辞書の一つなので、広辞苑を腐すつもりはない。
 ただ、自らを権威だと言うのは感心しないし、人にそう信じ込ませること、人がそう信じ込むのも正しくない。
 所詮、辞書だって人が作ったもの。間違いはあるし、解釈が人と異なることだってあって当たり前なのだ。
 
 私は所謂右翼ではないので、この問題を政治的にも思想的にも云々するつもりはない。
 あくまでも言葉の表現の問題として取上げたいが、結論的には政治的、思想的な問題とは無縁ではないかもしれない。

 まずは広辞苑を調べてみた。
 台湾省と記載されている地図は、「中華」の見出しにあった。
 台湾の帰属についての記述は、「日中共同声明」の見出しにあった。



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